
創業5期目の年末に何を考えるか。針鼠の概念で振り返る、ZINEのやりたいこと・できること・すべきこと
ZINEで代表取締役編集長をやっています、仁田坂淳史です。
出版ベンチャー、株式会社ZINEは2015年の創業から4年半を迎えました。来年には6期目を迎えます。
一言でまとめると
この記事を一言でまとめると、
- ZINEのオウンドメディア支援事業を改めて定義した
- 「オウンドメディア支援事業」とは、出版の良いエッセンスを持ち、読者・クライアント様・メンバー(社員などZINEに関わってくれるスタッフ全員)に対して、価値を感じてもらうことである
- ユーザ(読者)が数年後も本質的に求めているものを提供することをやりたい
- ZINEに発注してくださるクライアント様が、他の会社だと実現できないような、「読者の気持ち慮り力」を持って価値提供することはできる
- 会社として、メンバーの時給を上げるために仕事を選ぶべき
です。よろしくお願いします。
これまでのZINEの話
いろいろあった。
クライアント様が潰れてキャッシュフローやばくて個人口座にも会社口座にも6千円しかなくなってしまったり、社員がいなくなり大晦日のオフィスで一人呆然と立ち尽くしたり、いろいろありました。
今後、迷ったりしないために、現在のZINEがメインで取り組んでいる「オウンドメディア支援事業」について、改めて定義すべきだと思いました。
これまでいろいろあっていろいろ失敗してきたので、これからは定期的にアウトプットして、社内のメンバーが「何でZINEで働いているのかわからなくなった」「何をやって、何をやらないのかの基準がわからず、疲弊する・負の感情が湧く」といったことがないようにしていきたいと思っています。
ZINEを立ち上げる前の話
ぼくは出版社に新卒で入って、雑誌を作って、ミクシィに入って一瞬フリーになってZINEを立ち上げたりしました。
※このあたりに詳しいことが書いてある
針鼠の概念とは
その結果、ぼくらがやりたいこと・できること・すべきことをまとめるのが大事だなと思いました。
突然ですが、「針鼠(はりねずみ)の概念」というものがあります。事業をやる全ての人が読むべき(クソでか主語)名著『ビジョナリーカンパニー2』というものがあるのですが、そこではこのような概念を説明しています。

ビジョナリー・カンパニー 2 – 飛躍の法則 より引用
やりたいこと、できること、すべきことの合わさるものをやれってことなんですけれども、まさにそうだなあと思います。
ぼくらがやりたいことは何か(読者に対しての約束)
これは針鼠の概念の中で個人的に最も重要だと考えていることです。
PMF(Product Market Fit, プロダクトマーケットフィット;市場のほしいものを作る)も重要ですが、最近、FPF(Founder Product Fit, ファウンダープロダクトフィット;創業者の欲しいものを作る)の重要性を感じているところですが、ZINEにいるメンバー、とくに制作に携わる編集者、ディレクターはみんな一様にFounderです。
オーナーシップを持ち仕事に取り組むこと。これが認められる数少ない職種であり、実際法律としても専門従事型裁量労働制として編集者等が該当する、という解釈をされています。
すべてのメンバーが情熱を持って取り組めること、この状態が大事だし、会社として目指すべき姿だなと常に思っています。
ZINEのやりたいことは「読者に対して価値を感じてもらう」こと
「やりたいこと」は読者に対しての約束として捉えているのですが、ZINEが情熱を持って取り組んでいるのは、
「日本語を母国語とする読者に対して価値を感じてもらうこと」
です。
ぼくは出版業界にいたり、Webにいたり、起業してみたりといろいろとっちらかったキャリアなんですけども、いろいろやってきて結果、すべての経験を通してこれをやりたい(特に「オウンドメディア支援事業」として)、と思います。
いろいろ経験した中でも、出版業界での経験は、これに強く役立っていると感じます。
出版業界の良いところは何か
ぼくが出版業界で働いてよかったことを無理矢理ひとつにまとめると、
「読者の気持ちを想像できるようになったこと」
これに尽きます。
たとえば男性なのに女性誌を編集できるのはなぜか。エンジニアでもないのにプログラミング情報誌を編集しているのはなぜか。
ちょっと前まで一番売れていた女性誌『VERY』のなかで好きな話があって、シロガネーゼって言葉を作ったの、実は男性編集者らしいんですね。
シロガネーゼとは、東京都港区白金および白金台に居住する専業主婦、または近隣エリアに居住し白金および白金台でショッピング、食事などを楽しむとされる女性のこと。
白金なんて土地の女性の気持ちをくみ取るなんて、女性にしかできなそうな気がしますが男性がこういうのやってるのは実に出版的だなと思います。
※VERY調べたらいま7位っぽい。13万部かー
7位:「ヴェリィ」(光文社)13万1206部
自分が読者対象じゃなくても、アンケートだったり、アンケートに留まらずたとえばユーザヒアリングだったり街中観察だったり、そういうものによって自分の中の初期仮説を概念実証し、商品(たとえばVERYの例だったら服だったりアクセサリー)に伴走し、読者に最適な形で届け、価値を感じてもらう。すごい素敵な仕事じゃないですか。
オウンドメディアの仕事も同じで、難しいテーマ(たとえばZINEだったらエンジニアや医療、人材がテーマの媒体を取扱うことが多く、強みといえます)で、自分が読者対象やペルソナに該当していなかったとしても、クライアント様の事業に接合する形でいろんなことを考える。考えた末に記事を制作することもありますし、ほかのマーケティング施策を採ったりします。
出版業界の良いところはイタコ化
話を戻すと、出版業界では「イタコ化」という言葉がよく使われたりします。
ぼくの周りだけだったかもしれませんが、それに類する言葉だったり概念だったりが必ずあるはず。
イタコは、日本の北東北(東北地方の北部)で口寄せを行う巫女のことであり、巫の一種。
誰かを自分の中に憑依させ、その人だったらどういう記事を読みたいだろうか?とひたすら考え続ける、みたいなことは出版業界のいいところだなあと思います。
男性編集者が白金にいる女性をシロガネーゼと称して一大ムーブメントを起こしたように、ぼくらもどんなテーマのオウンドメディア支援でも、同じようにやっていきたい。そう思っています。
厳密に言うと、「読者の気持ちを想像できる」は針鼠の概念における「できること」に該当するような感じもありますが、「世界一読者の気持ちを想像できる会社」ってなんかおこがましいなーと思っちゃうので、そうありたい、という気持ちを込めて「やりたいこと」と定義しています。
ZINEは何をやりたいのか
ZINEは、読者の方々に対しての約束として「読者の気持ちをずっと、2歩先も3歩先も読みとって記事を提供し続けたいな」と思ってます。
SEOを専門でやっている、SEOを強みとするコンテンツマーケティングの会社はけっこう当たるも八卦、当たらぬも八卦的なところがあり、わりと適当だなあ、と感じることがあります。(数値を使って定量的っぽい説明をしているけれど、それって3年後もそうなの?とは思えなかったり)
ぼくらは読者の気持ちを2歩先も3歩先も読みとった結果、半年後〜数年後も読まれ続ける記事、みたいなものをクライアント様に対して提供することがあります。それがコンサルティングを通して、マーケティング的にやるべきと判断したからです。
それが回り回って未来の読者を満足させ続ける。そういう仕事をしていきたいなと思います。
出版ベンチャー、エディトリアルコンサルティングファームとして、こうした仕事に取り組むことは10年で死んだり、Googleのアルゴリズム変更で死ぬことのない強さも感じます。
ぼくらにしかできないことは何か(クライアント様に対しての約束)
出版ベンチャー株式会社ZINEが、ぼくらにしかできないと考えていることは、「出版のエッセンスをオウンドメディア支援に持ち込む」ことです。そして、クライアント様にその価値や効果を感じてもらうことだと考えています。
ZINEを起業して4年半、オウンドメディア自体には携わりはじめてそろそろ8年になるんですけれども、
「日本語 × 出版 × Web × 本質的なマーケティング = オウンドメディア」
という領域では世界一になれるな、と思います。
そのうち日本語だけじゃなくて英語領域、とくにアメリカでもそうなりたいんですが、アメリカ人メディアをちゃんと読まない(NYの人は紙の本めちゃ読むのに)ところがあるからなあ、でもトライしてみたいな、といったことをずっと考えています。
出版のエッセンスとは何か
ぼくが新卒で雑誌の出版社に入ったとき、めちゃめちゃ理不尽だったりめちゃめちゃ非効率だったりした経験がたくさんあります。それらがぼくにとって重要な、出版のエッセンスに気付く原体験となりました。
先に書いた、シロガネーゼの話はまさに出版のエッセンスの一例なのですが(今後ことあるごとに色々アウトプットしようと思います)、そういうの「だけ」を残したいなと。
『働きマン』や「プラダを着た悪魔」に見るような華々しい出版業界の話は実は全体の業務時間の3%くらいでしかなくて、現場は編集長含めて泥臭いことばかり、というのが現実なんですけども、でもその泥臭さはぼくの経験上、とても重要でした。
泥臭い仕事
たとえば、寝ずに働いたり、とにかく時間をかけて非効率的っぽい仕事をしたのは泥臭かったな〜と思います。
ぼくは1.5日くらいは起きていられるんですが、仕事効率は散々です。めちゃめちゃ非効率。集中力低いし。人間は地頭の良さ悪さにかかわらず、1時間くらい仕事し続けると集中力が50%くらいになってしまう。しかもそれに気づけない。といった話を読んだことがあるんですが、そうだなあと思います。
それでも出版業界は入稿日の存在に救われていて、がんばりどころ周期が存在しますので、なんとなくやっていけてるのだと思っています。
ほかにも、たとえばエクセルの単純な整形(書誌データを見たり)とか、撮影前の細かいやりとりとか、複数並行して走りまくるメールの一部に非効率的っぽさを感じたことはあります。
ツールが非効率を癒やしてくれた
ぼくは新しいツールを導入したり、比較検討するのがとても好き(個人の趣味です)なんですが、根底に、「出版業界の良いところを残しつつ、非効率な仕事を払拭したい」という思いがあるからです。
一時期、ZINEを経営していくなかでも「ぼくが昔経験したから、これくらいのことはやってもらわないと困る」と思ってたフシがあります。今だから正直に告白できるんですけども。というか、たぶん当時は無意識にやっちゃってた。
無自覚に出版のわるいエッセンスをZINEに引き継いでしまっていたな、と強く反省しています。たとえば 非効率な働き方・メンバーに甘えた仕事の振り方だったりが挙げられます。
いろんなツールを使って、ぼくが解決したいのは、出版のわるいエッセンスの払拭です。
たとえば入社して直後の人が短期的に見ると「ZINEっていろんなツール覚えなくちゃいけなくてめんどいな」と思うかもしれないんですが、それによって人間が本質的に注力すべき仕事に取り組めるのはとても素敵なことだと思います。
中長期的に考えた結果、出版の良いエッセンスだけをくみ取って、いい仕事をする。
これがぼくらがクライアント様に対してすべき、ぼくらの約束です。
ぼくらがすべきことは何か(ZINEに関わってくれるメンバーに対しての約束)
すべきこと、これは『ビジョナリーカンパニー2』の中では、「経済的原動力となるもの」と定義されてます。
経済的原動力って言い回し、とっつきにくいようにも思うのですが、考えていけばいくほど経済的原動力、としか言いようがないことに気付きます。財務指標の分母は何か、ということなんですけども、経済的合理性のための源です。
ZINEではエンジニア向け記事や医療情報など、比較的難しいとされる領域のオウンドメディア制作やSEOだったり、バイラル(SNSなどでバズらせること)が得意です。
が、それはあくまでも経済的合理性の上でたとえば競合優位性が高いテーマだったりするため、針鼠の概念における「世界一になるほどできる」と豪語することには疑問符が残ります。
ぼくの古巣の技術評論社の技術編集力もそうなのですが、業界誌だったり学会誌編集部だったり、その道のプロはどこにでもいらっしゃいますし、そこで専門性をとにかく追求していくのもなあ、と思ってます。
経営的に考えても、短期的には専門性特化で生き残る道もあるにはあると思います。それに儲かる。だけど、ちょっと情熱が持てないからZINEではやらないかな〜と考えています。エンジニアの話も医療の話も人材採用の話も、紙もWebも全部やってるからこそわかることがある、と思います。
「すべきこと」は、ZINEに関わってくれるメンバー(社員、アルバイト、業務委託問わず)に対して会社ができる約束です。いろんな横断的なドメインのオウンドメディア支援を行ってはいますが、やり方や課題解決の手法は千差万別。
たとえばB2CとB2Bでは全然違います。
B2Cのオウンドメディアで経済合理性を取ることは難しい
B2Cでは一般消費者を対象とした商売を行うため、安い商材がほとんどですよね。たとえば「シャンプー1個買ってもらうのに、40万円もオウンドメディアかけて大丈夫?」とか、そういう判断があるわけです。オウンドメディアを作って記事配信しても、その記事が届く限界PVはなんとなく経験的に見えてきてしまいます。
だったら「嵐とか若手俳優とか今、旬のタレントを起用して、5億円で1ヶ月キー局のCM枠を抑えて地上波CMを流したほうがいいな。タレントに1500万〜4000万くらいの出演料を払ってでも、シャンプー使ってもらったほうがいいな」となるわけです。
多産多死、多くの読者に読んでもらって、ほとんどの人が買わなくてもいい、といった産業構造が働きます。その分多くの人にリーチしているのでいいんですけどね。
(ちなみに、シャンプーなど低関与商材の1顧客獲得あたりCPAは2万円くらいらしく、本体商品価格に対して高いなと思ったことがあるのですが、一度使い始めるとなかなか乗り換えが起こらないらしく、うまいことできてるなと思ったことがあります)
B2Cだから、商材が安いからたとえば記事制作コストも安く抑えないといけないか、というと必ずしもそういうわけではなく、その分CVRがめちゃめちゃ高かったり、PVが鬼のように伸びればいちおうコスト計算上、合理性があるわけです。
どうしても伸ばしにくい、たとえばバイラルさせにくいテーマの記事があるにはあるので、その場合、どうしても弊社がクライアント様に対して行う御見積は弱気(安い)ものになりがちです。
(最近、D2C業界では100PVしかないのに50CVもする、CVR50%みたいな、以前では考えられなかったニッチで深い記事みたいなモノの売り方が盛んになっていますがそれはまた今度書きます)
高単価なB2Bは、オウンドメディアがハマりやすい
一方、B2Bは企業向けの商売ですので、高単価なものがほとんど。B向けSaaSはこれに該当しないこともあり、過当競争に陥っている感もありますが、B2Cビジネスよりはそこまで多くの人に読んでもらう必要がなく、結局CV数が低くても成立する、みたいなところがあります。
100万円のソフトウェアを買ってもらうために、100万円で記事を作ったとして、3日間で100人の読者の方が記事を読んだとします。100人のうち1人しかソフトウェアを買ってくれなかった(CVR 1%)としても、いちおうクライアント様側としては「マーケティング費、ペイしてるよな」と思えますよね?
それどころか、オウンドメディアの記事はストックコンテンツですので、たとえばZINEの事例だと長ければ2年半、Google検索1位近傍に君臨しつづけた、みたいな事例があります。たまに2位になったりするんですけども。
先の事例だと3日間で100人の人が読み、1人の人が買ってくれた事実がある以上、2年半も1位になってくれたとしたら、100万円の記事はムチャクチャ安いなと思うわけです。
とはいえ、経済的合理性のために、B2C・B2Bどちらをやればいいか、という判断はしない
ここまで読むと、なんとなくB向け商材を扱ったクライアント様に対して記事提供をし続けたほうが、ZINEが会社として経済的合理性がありそうに思えます。
高単価で売りやすそうですよね。実際、これまでもそういうところあるし。
ただ、最近はB2B2C市場の隆盛を感じています。ぼく自身もB2B・B2C・B2B2C市場に対してアプローチするPLIMES株式会社のCo-FounderとしてZINEと並行して活動する中で、やっぱり感じるのは市場が複雑になってんなーということです。
コメ作って売るみたいな単純な商売だけじゃないからね。B2Cと言えども、B2Bが絡んでB2B2Cとして売ったほうがビジネスモデル上いい、みたいなところがある。マーケティング的にコスパ合わないからやめよう、みたいなことはもったいないかなと思います。
ぼくらとしてはB2Bだから尊いとか、B2Cはやっちゃだめとかそういう判断をすべきでもないのかな、とも思ってます。
正しく計測して、正しくクライアント様に対して説明できるからこそ、高い価値を感じて、クライアント様にぼくらのコンサルティング、記事制作、そのほかのスキルを買って頂けている、と思ってます。
とはいえ、経済的に考えてメンバーに対して約束できることはZINEが機能会社としてクライアント様に価値を感じていただき、より高単価なスキル・機能を買っていただくこと、そして、ZINEに関わってくれるメンバーの時給を上げていけることだと思ってます。
アウトプットの重要性を感じた
ともかく、出版のエッセンスが入ることで単純なオウンドメディア記事制作編プロ(編集プロダクション)や制作会社と一線を画した要素が生まれた、と、2期目か3期目あたりで感じることができました。ちゃんと言語化してテキストに残すのは5期目の今がはじめてなんですけども、こういうのを残すことが重要だと思いました。