
オウンドメディアがやりがちなもったいないSEO
ZINEで編集者をやっている市川円です。
これまで私は商品紹介メディアでSEOに取り組み、月間1,400万PVから2,700万PVまで成長する過程を経験してきました。その経験を活かして現在はオウンドメディアのSEOコンテンツの制作などをお手伝いしています。
私がその中で感じるのは、せっかくオウンドメディアに可能性を感じて取り組んでいるのにそのSEOの認識ではとてももったいない……!ということです。
そこで今回はSEOの専門家から見た「オウンドメディアがやりがちなもったいないSEO」と、その対処法についてお話します。
SEOに注力してきたのにいまいち成果がでないとお悩みのオウンドメディア担当者の方や、これからSEOに取り組んでいきたい担当者の方は、ぜひ参考にしていただけると嬉しいです。
それではさっそく、オウンドメディアがやりがちなもったいないSEOについて順に紹介していきます。
コンセプトを決めずに外注に丸投げしがち
まず最初に、オウンドメディアを広告と同じように捉えてコンセプトすら決めずに制作会社などにすべて丸投げでお任せしてしまっていませんか?
誤解のないように言っておきますが、オウンドメディアを運営するうえで外部の方にお願いすることがいけないと言っているわけではありません。むしろ、高品質なコンテンツを安定的に供給するためには、ある程度外注すべきケースも多いです。
しかしオウンドメディアはあくまでもメディア。メディアは発信手段のひとつでしかないので、発信内容を芯の通ったものにするためには「メディアコンセプト」が最低限必要になります。
メディアコンセプトとは
メディアコンセプトは一言で言うと「どのようなメディアか?」を誰が見ても伝わる形で表現したものです。サイト名と並記されることの多いタグラインとは違います。
たとえば、mediageneの運営する「roomie」は、「『住まい』にまつわるすべてのことを発信するメディア」(媒体資料より)と定義されていますが、タグラインは「クラフトな遊び心地」となっています。これは、タグラインだけではコンセプトが伝わらない例です。
一方で、タグラインがメディアコンセプトとして機能するケースもあります。basicの運営する「ferret」は、タグラインでもある「マーケターのよりどころ」をコンセプトとして採用していますが、それだけで「マーケターがいざというときに頼りたくなる実務的なコンテンツ」を掲載していることが伝わります。
さらに、少し特殊ですがサイト名がタグラインとして機能するケースもあります。クラシコムが運営する「北欧、暮らしの道具店」にはタグラインがありません。しかし「北欧のライフスタイルを取り入れ自分たちらしく表現する」というメディアコンセプトはサイト名だけで十分に伝わるでしょう。
媒体資料やPRなどにおいて、あえてタグラインを使う場合もあります。しかしその根本となるメディアコンセプトは、分かりやすく具体的なものでなければいけないのです。
適切なSEO施策を行えばコンセプトのないメディアでも一時的に認知を獲得することは可能です。しかしそれでは先がありません。たとえテクニックでPVを伸ばしたとしても、そこにコンセプトがなければ未来に繋がらないのです。そういったオウンドメディアはアルゴリズム変動の度にテコ入れしなければ集客効果を維持できず、広告よりもコストがかさんでしまうでしょう。
そのためたとえコンテンツ制作をすべて外部にお願いする場合でもメディアコンセプトは全力で練ることが大切です。
メディアコンセプトを作成する上でオススメの方法はユーザーヒアリングです。自社サービスの既存ユーザーに実施できれば理想的ですが、難しい場合は競合サービスのユーザーでも構いません。ヒアリング内容は「最近の悩み」「休日の過ごし方」といったプライベートな質問を中心に構成します。
年齢や家族構成といった定量的なデータはアンケートでも収集できますので、ヒアリングの際は人柄や価値観に直結する質問を多くしましょう。メンタルモデル(解釈のクセ)を理解を目指すことがポイントです。
またユーザーだけでなく、社内に向けて「自社サービスの抱える課題」についてヒアリングすることも効果的です。自社の課題はマーケティング的な観点のみで考えてしまいがちですが、現場でサービスを提供している社員だからこそ気づく課題も少なくありません。
そこからさらに、SWOT分析で自社ができることを明確にしたり、ヒアリングデータを基にペルソナを設計したりしながら、メディアコンセプトを決めていきます。
社内のメンバーだけで考えるのが難しい場合は、コンセプトの作成段階からぜひコンテンツ制作会社を巻き込むことをおすすめします。
やらなくていいSEOにコストを割きがち
予算に任せて丸投げするのとは対照的に、外部の人にお願いするためのお金がないからと自社でやらなくていいSEOまで取り組んでしまっているケースもままあります。
自社でやらなくていいSEOには「やる意味のないSEO」と「自社でやる意味のないSEO」の2種類があり、それぞれ把握しておくことが大切です。
やる意味のないSEOとは
やる意味のないSEOとは、たとえば
・1記事あたりの文字数は3,000文字以上
・h2見出しには必ずキーワードを盛り込む
・メインキーワードの比率は○%に
といった、文字数やキーワードの出現数などを意識した本質的ではないSEOのことです。
数値で計測できる定量的なSEOは、誰でも真似しやすいことから一時期とても流行りました。しかしこれらの読者の方を向いていないSEOは、現在は注力する必要はほぼありません。
たとえば「自動車ローン」というビッグワードの検索1位は、自動車ローンの希望借入額や借入期間から返済額を計算できるツールで、非常にシンプルな作りのサイトです。
もうひとつ、検索数は少ないですが「湿布 貼り方」というワードの検索1位も参考になります。こちらは東和薬品株式会社が自社製品の使用法を解説するコンテンツで、内容は簡単なテキストとGIF画像のみ。
引用元:ロキソプロフェンNaテープ「トーワ」 – ひざの上手な貼り方
どちらも検索ワードどころか、コンテンツ自体に文字があまり含まれていません。以上の例からも文字数や検索ワードの出現数などに関するSEOはあまり意味をなさないことが分かると思います。
そもそもGoogle検索はユーザーの課題を解決するために存在しているので、テキストコンテンツが必ずしも最適とは限りません。計算ツールを提供することが課題解決に繋がる場合もあれば、動画やイラストで解説したほうが分かりやすい場合もあるのです。
この点について、Googleのウェブマスター向けガイドラインの基本方針にも「検索エンジンではなく、ユーザーの利便性を最優先に考慮してページを作成する」と明記されています。
そのため、従来の定量的なSEOにとらわれず、ユーザーにとって必要な情報をより適切な形で届けられているか否かに集中するというのがモダンな考えです。
自社でやる意味のないSEOとは
内部リンクによる導線とサイテーションの強化、スマホ対応やページ速度確保によるユーザビリティ向上……。
確かにどれも読者にとって有益なものであり重要な対策です。理解して取り組まなければSEO的にペナルティを受けることもあります。しかしこれらは自社で取り組むべきことではありません。なぜならコストパフォーマンスが非常に悪いからです。
上述したようなテクニカルなSEOは、たとえるなら翻訳と同じ。日本語のテキストを英語にしたいからといって、一から英語を学ぶのはあまりに非効率です。社内に英語堪能な人がいればその人へ、それでも力不足なら翻訳会社へ依頼するでしょう。これと同じことがSEOコンテンツの制作にも言えるのです。
やらなくていいSEOにリソースを割く余裕があるなら、徹底的にメディアコンセプトを考え抜くことをおすすめします。
コンテンツの結びに自社サービスを入れがち
せっかくSEOコンテンツを配信しているのに、結びを自社サービスにしてしまう。これがもっとも多い「やりがちな失敗」です。
多くの企業が、「認知拡大」や「売上増大」をオウンドメディアに期待します。確かにそれはオウンドメディアがもたらす効果の一端ではありますが、だからといって売上への貢献を急いではいけません。
たとえば「栄養剤」を訴求したいなら、「元気を出す方法」というキーワードで上位表示を目指すコンテンツに、本当に栄養剤の紹介を挟むべきなのかどうか、考え抜く必要があります。
「元気を出す方法」で検索するユーザーはどんな状況にあるのか?果たして今すぐ手に取れない商品を求めるだろうか?そもそも一時的な元気を求めているのだろうか?もっと根本的な解決策を求めているのではないだろうか?
もしユーザーの期待を損ねる形で商品を訴求すれば、それは未来のファンを失うという目には見えない大きな損失に繋がります。PVや売上を求めるあまり、本来の事業の足を引っ張ってはいけません。
ユーザーの期待に見合うかどうかを判断する方法は簡単です。自社サービスの紹介部分を省いたとき、コンテンツが成立するかどうか見比べてみてください。省いても成立するのであれば、そのコンテンツに掲載された自社サービスはただの広告として映る可能性が高いので、削除したほうが賢明でしょう。
検索ボリュームを基準にキーワードを選びがち
安易に自社サービスの宣伝をしてはいけないのと同じように、SEOで狙うキーワードも集客効果を期待するあまり検索ボリュームの大きさだけで選んではいけません。検索ボリュームの大きさではなく「どのキーワードで表示されたいか?」をイメージしましょう。
何を当たり前のことをと思われるかもしれませんが、意外とできていないメディアが多いのです。ではどうやって適切なキーワードを選ぶのか?今回はぼくがSEOキーワードを選定をする上でよく使っている4つのツールを以下でご紹介します。
1. Ubersuggest
Ubersuggestは、世界的Webマーケターであるニール・パテル氏が自身の会社で開発したSEOツールです。後述するキーワードプランナーと違い、検索ボリュームを詳細に把握できるのが特徴。すでにある程度キーワードが固まっていて、検索ボリュームを確かめたいときに利用することが多いです。
検索ボリューム・難易度・広告クリック単価などが分かるだけでなく、自社のドメインを登録すれば検索による流入数や被リンク数なども確認することができます。
全ての機能を使うには有料プラン登録が必要ですが、キーワード選定のために使うなら無料プランで十分です。
ちなみに表示される検索ボリュームはGoogle検索の結果のみを対象としているため、その他のSEOツールで表示される検索ボリュームとは異なる場合があります。
2. キーワードプランナー
キーワードプランナーは、Googleが提供する広告出稿時のキーワードを選定するためのツールです。本来は広告出稿者向けのツールのためGoogle広告への登録が必須となっていますが、広告を出稿しなくてもツールの利用自体は可能です。
ただし無料で利用する場合は検索ボリュームが「100~1,000」と幅を持った形で表示されてしまうので、詳細な検索ボリュームが知りたい場合はUbersuggestと使い分けましょう。
キーワードプランナーは表記揺れなども考慮して幅広くキーワード候補を返してくれるので、コンテンツのテーマが固まりきっていない段階で、周辺ワードをリサーチするのに役立ちます。
Ubersuggestで検索ボリュームを確認したときに予想外にボリュームが大きかった・小さかった場合に、キーワードプランナーで適切な言い回しを確認する、といった使い方をすることも多いです。
3. 関連キーワード取得ツール
キーワード候補がある程度定まったら、関連キーワード取得ツールでさらに周辺情報をリサーチします。
関連キーワードを取得するツールは数多くあるのですが、このツールは「関連するQ&A情報を抽出してくれる」点が便利でよく利用しています。
Yahoo!知恵袋や教えて!gooで質問のあった関連情報を網羅的にチェックできるので、意外なユーザーニーズに気が付くことも少なくありません。
4. Keysearch Beta
関連キーワードが多すぎて把握しきれないときは、視覚的に整理して表示してくれるKeysearch Betaが有効です。
ただしKeysearch Betaは、メインワードに対して検索ボリュームが極端に小さい関連キーワードは表示されなくなります。
たとえば、月間検索ボリューム12,100の「オウンドメディア」で検索した場合、月間検索ボリュームが70の「オウンドメディア 一覧」は表示されません。
これらのツールが役に立つのは、あくまでも「どのキーワードで表示されたいか?」をイメージできている場合の話です。
何と検索したときにそのサービスが表示されたいのか。何と検索する人にそのサービスを届けたいのか。そもそも誰に向けてサービスを提供していたのか?を徹底的に考えましょう。そしてそれは、必ずしも顕在化したニーズとは限らないのです。
たとえば、花王のキュレルというスキンケア用品ブランドがあります。
キュレルは「乾燥性敏感肌を考える」というコンセプトで1999年に誕生したブランドですが、当時は敏感肌や乾燥性敏感肌といった概念はまだあまり広まっていませんでした。
そこで、新商品発表の際などに「敏感肌」「乾燥性敏感肌」という言葉を積極的に打ち出すことで、概念そのものの認知拡大を目指したそうです。(参考:リクルートと花王、GameWithにみるSEOの現在)
「敏感肌」というキーワードの人気度を調べてみると、Googleトレンドの計測が始まった2004年1月時点で21だったのに対して、2020年1月時点で95まで上昇しています。これは敏感肌という言葉が浸透していなかっただけで、敏感肌に悩む人が実際には多くいたことを表していると言ってよいでしょう。
キュレルの例から分かることは、ユーザーニーズさえ見誤らなければ、検索ボリュームは後からついてくるということです。
検索ボリュームを意識するあまり、企業が見るべきユーザーを見失わないようくれぐれもお気を付けください。
まとめ:コンセプトのないメディアをSEOで伸ばしても焼け石に水
以上がオウンドメディアがやりがちなもったいないSEOとその対策でした。
まとめるとコンセプトのないオウンドメディアがSEOで集客を目指しても、そもそも見据えるべきユーザーを見失っているのでは本末転倒ということです。
SEOはただの手法であって、徹底すれば結果がついてくる魔法道具ではありません。
たしかにツールやテクニックを駆使したSEOには再現性がありますが、再現性があるコンテンツとはつまるところ、誰にでも作れるコンテンツなのです。そして誰にでも作れるコンテンツは、果たしてオウンドメディアを運営する企業にとっての資産となり得るのか……
もしよければ今一度、メディアコンセプトから見直してみてはいかがでしょうか。